1996年にパソコンで発売されたアダルトゲーム
1990年代は家庭用ゲームが進化する中、パソコンにおいては18禁のアドベンチャーゲームでいろいろな尖った作品が発売されていました。
中でも本作の重く暗いシナリオは最先端と言っていい尖り方をしていました。
雫[1996年 PC]
シナリオライターは高橋龍也氏。
今は脚本家として多数のアニメに参加。最近では『アイドルマスター シンデレラガールズ』のシリーズ構成を担当しています。
キャラクターデザインは水無月徹氏、音楽は折戸伸治氏、下川直哉氏らが担当。本作がはドベンチャーゲームにおいて『ビジュアルノベル』と銘打たれた初の作品でした。
※今日は18禁ゲームのレビューとなりますので注意!
退廃的で衝撃度の高いストーリー
アクアプラスのアダルトゲームブランドであるLeaf。
まだ有名でなかったLeafが一躍有名になったのは『To Heart』の発売後です。ただ、それまでに発売した2作品『雫』『痕(きずあと)』のストーリーが非常に良かったことが布石となっていました。
本作はかなり退廃的なシナリオであり、イラストレーター『水無月徹』氏の絵柄も独特だったため、当時はあまり注目されていなかった記憶があります。ただ、発売後は口コミで面白さが伝わり、結果的にヒットを飛ばすことになったのです。
物語の序盤から頭をガツンと殴られるような衝撃的なシーンから始まる本作。アダルトゲームであることを活かした展開が次々に待っています。
単にHシーンがある、というだけでは他の18禁ゲームと変わらなかったのですが、本作の特徴として、暗く退廃的なシナリオにおいてそういったシーンが密接に結びついていたところにありました。
また、それ以外のシーンでもショッキングなシーンが数多く登場。直接的なグラフィックもあれば、文章によるものもあり、それらを含めて暗く重い物語を生み出しています。
他に類を見ない美しい狂気をもったヒロイン『瑠璃子』
本作のメインヒロインである瑠璃子。この人物は非常に特徴的な造形&内面を持っており、ゲームを代表するキャラクターと言えます。
当時の水無月徹氏が描く特徴的な絵柄に加え、最初に登場したときのインパクト、いきなり訳の分からないことを話しだす彼女は不気味で何を考えているかまったくわかりません。
作中で『扉を開いた者の目』と形容される通り、焦点の合わないような瞳が狂気を感じさせます。物語においても彼女の口から紡がれる言葉は曖昧かつ行動も不可解です。
距離が縮まる中盤以降も言葉が少ないことが影響して謎の多いキャラクターとして、物語の最後まで描かれることとなります。
ただ、彼女のルートを最後まで遊びトゥルーエンドを見たときには誰もが瞳に魅了されていることでしょう。
彼女のルートに入ったあとに待つ夕焼けのシーン。
劇中では『溶鉱炉の中の金属が、飴色になって溶け落ちるような赤』と表現され、折戸伸治氏が手がけた名曲『瑠璃子』が流る名シーン。本作と彼女を代表する場面です。
当時のノベルゲームにおいては演出がまだ貧弱で、今では当たり前のエフェクトなどはほとんどなく、画面が明滅する白フラッシュぐらいです。
その環境下で1枚のグラフィックと音楽、そして文章だけで20年経っても忘れないシーンを作ることができるというのは本当にすごいことです。
ビジュアルノベルの元祖
また、本作は弟切草の手法でアダルトゲームを作ることがコンセプトでした。
それまでのアダルトゲームはメッセージウィンドウ方式を取っており、1画面に表示される文字数に限界がありました。
ただ、本作では画面すべてを使って文章を表示させるサウンドノベルの手法をいち早くPCゲームに取り入れたのです。また、弟切草やかまいたちの夜と違うところとして、キャラの立ち絵が表示されるシステムを採用しました。その後、この手法はアダルトゲームにおいて1つのスタンダードとなりました。
『月姫』や『Fate』なども、本作から発生したビジュアルノベルの流れをくんでいると言えます。
弟切草に代表されるサウンドノベルの手法をPC版に引き込み、そこにキャラグラフィックを加え味付けして生み出された本作。その流れは今でも続いているといえるでしょう。
絵もシナリオも強烈すぎる1本
本作は20年近く経つ現在でも家庭用に移植はされていません。
シナリオの展開上、Hシーンを削るわけにはいきません。そのため、移植はまず不可能です。
学校内ですべての物語が展開するため、今のノベルゲームに比べると小規模な作りになってます。その分物語が凝縮されているため、強烈さで言えばトップクラス。
狂気に憧れる主人公の内面描写も秀逸そのもの。普通のアドベンチャーゲームでは滅多に見ない性格をしています。
本作は今後もずっと家庭用に移植されることはないでしょう。
PCで一度リメイクはされましたが、もともと持っていたグラフィックの個性や、シナリオの改変が行われていることもあり、衝撃度合いは薄まってしまいました。
名作というより、怪作と言ったほうがしっくり来る作品であり、いい意味でも悪い意味でも尖っていたゲームです。その味を現在に再現しようとしてもいろいろな意味で無理なのかもしれません。
尖った怪作からビジュアルノベルの形式が生まれ、今に続く流れができているというのは面白いですね。アドベンチャーゲームにおいてエポックメイキング的な役割を担った、記憶に残る1本です。
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